村長インタビュー
- ノキシタを作ってよかったなぁって
株式会社AiNest代表の加藤清也さん(村長)に、ノキシタが生まれるまでの苦労話や想いを語ってもらいました。
―ノキシタの構想を思いついた経緯を教えてください。
村長:高齢で頑なになっていた自分の父親に、ある日「(重度知的障害をもつ息子の)ひろむをお風呂に入れてくれない?」とお願いしたんです。そうしたら、父親がすごく元気になって、雰囲気が和らいたんです。それを見たときに「あぁ、役割を持つって、すごく大事なんだなぁ」と思いました。
そういうことが何回か繰り返されて、『”障害者”と”高齢者”の組み合わせは、新しいものを生み出すんじゃないか』と、なんとなく朧げに感じていたんです。
―そこから、どう事業になったんですか?
村長:私は国際航業という建設コンサルタント会社の技術者として、田子西地区のまちづくりに携わっていました。ある時、『土地を活用するアイディアが何かないか』と会社から求められ、“高齢者と障害者の組み合わせ”というのが頭にあったので「そんな施設を作れば、地域の高齢者たちがすごく活き活きして、活躍の場が広がるんじゃないか」と提案をしました。
その提案が通って、具体的に事業になるまでには、試行錯誤しながら色々な人たちと議論していき、徐々に形が出来上がって、今に至りました。
―ノキシタのオープンまでに苦労したことは何ですか?
村長:一番は、前例がないことを新しい事業としてスタートするための投資を得ることですね。
『高齢者と障害者を組み合わせることによって、高齢者が健康になっていく・・・その結果、行政のコストが抑えられて、それをビジネスにしよう』そう考えた時に、理屈でわかったとしても、それが今は制度として存在しないわけですよね。
制度として無いってことは、儲かるという確証がない。それをどうやって認めてもらうかっていうのが、一番苦労したところです。
―なるほど。ほかに苦労したことはありますか?
村長:もう一つは、高齢者と障害者の事業を行っている方々からすると、”あまりにも常識外れなことを考えている。そんなことはうまくいくわけがない”と、なかなか理解していただけなかったことですね。
―それはなぜでしょうか?
村長:介護を必要とする高齢者がどんどん増える一方で、行政の税収はこれからどんどん減っていく。そうなると、どうしても補助金や助成金の取り合いになってしまい、財政支援を必要とする方々にお金がいきわたらなくなる可能性があります。
そうならないためには、行政支出の無駄を指摘したり税率を上げるだけでなく、”介護を必要とする高齢者をできるだけ増やさない取り組み”が必要だと考えました。しかも、行政からの財政支援にできるだけ頼らずに、自分たちで利益を出して事業を継続する仕組みをつくる。
けれどこの考えは、見方を変えると、既存事業の否定と捉えられなくもないし、なぜ営利目的の民間企業がやるの?との疑問もある。ましてや、これまでは支えられる立場とみられていた重度知的障害者が高齢者を元気にする役割を担い、それを仕事にするなんて・・・これまでの考えとは違うことが多いので、理解され辛かったのかなと思います。
―オープン前と後で、イメージと現実の違いはありましたか?
村長:ありました。オープン前は、もっと高齢者の方にいっぱいご利用いただけると考えていました。
スペースが足りないくらい、高齢者の方が押し寄せてくるんじゃないか、と。ところが、ふたを開けてみたらなかなか来ていただけない。―思ったように人が来てくれない・・どんなお気持ちでしたか?
村長:「なんで受け入れられないんだろう?」という想いでした。地域の方にヒアリングをして、「どうして来ていただけないのか」と尋ねて話を聞くと、「自分が想像していたのと、受け止め方がこんなに違うんだ」と驚きました。
―具体的には、どんなギャップがあったんですか?
村長:『民間企業が運営しているのに利用料が安いということは、ここに来たときに怪しいものを売りつけられるとか、なにか騙されるんじゃないか』・・・と皆さん身構えていたんです。こちらはそんな気は全くなく、いらした方から利益をあげようって発想ではないのに、一般の方は『利用者からお金を取るのがビジネスだ』という先入観があったんです。
―その誤解は、どうやって解いたんでしょうか?
村長:まだその誤解は解けていないです。その誤解を解くために、こちらが一生懸命「こういう所です」とアピールすると逆効果で、追えば追うほどに逃げていくんだなぁと感じました。じゃあ追いかけるんじゃなくて、逆に地域の方が関心をもって向こうから来てくださるには、何をすればいいのかな、というのを今試行錯誤しているところです。
―村長が思う、ノキシタってどんなところ?
村長:一言で言えば、居心地がいい場所です。
人間って誰でも、今日一日どうしようって悩む時あるじゃないですか。お金がある人、移動手段がある人はいろんな場所に行くことができるけども、あまりお金は使えない、車も持っていなくて行動範囲が限られてる人には、行き場所がない。そんな時に徒歩圏内にこういう施設があると、非常に利用しやすいんじゃないかなぁと思います。
―これまでノキシタを運営してきて、嬉しかったエピソードを教えてください。
村長:宮崎さちこさんが毎日通ってくださり、目に見えて健康になっていく姿を見れたことですね。ひろむやコレジョと楽しい時間を過ごすためにノキシタに来るだけで、特別なことは何もしていない。それなのに元気になっていくのがすごく実感できました。仮説が間違ってなかったんだなぁと実証されたのが嬉しかったですね。
―さちこさんご自身もとても喜んでいらっしゃいますよね。
村長:それから、こちらが全く想定していなかった利用の仕方を、利用者の方が自分で気が付いて、こちらに提案していただいた事も嬉しかったですね。
最近の例で言うと、『子育て中のお母さんたちの居場所がない』という悩みは情報としては知っていたけれども、その方々にノキシタに来ていただくという発想はそもそもなかったんです。ですが、あるお母さんからママ向けイベントの提案をいただいて、「じゃあ試しにやってみましょうか」と開催してみたんです。そうしたら、「世の中にこんなにニーズがあるんだ!」ということに気づきました。場所をつくってみると、色々な出会いが本当に生み出されるんですね。利用者自らが、やってみたいことを企画する場所になってもらえたら嬉しい
―これからもっとノキシタに来てほしい人、関わってほしいのはどんな人?
村長:一番最初にターゲットにしていた高齢者の方々ですね。ただ、やはりその方々に来ていただくってことは、今までの生活を変えて来ていただかなきゃいけない。でも「変えてください」って無理強いはできないから、緩やかに来ていただけるように、どう生活サイクルを変えてもらえるかっていうのが、今後の課題かな。
あと、行政や企業、福祉や介護事業者の方々にも来ていただきたいです。立場が異なれば価値観も違うけど、異なる価値観をつなぐことで見えてくることもあると思うのです。株式会社、社会福祉法人、NPO法人という異なる組織が一緒に運営しているノキシタの空気を、肌で感じていただきたいです。
―ノキシタが目指す未来像は?
村長:ここは基本的に、こちらから何か「やってあげる」ではなく、来た方が「自分なりにできる役割を持つ」というコンセプトで作ったので、最初はイベントも一切計画しない方針だったんですね。
でも「来てください」というだけでは、来るきっかけがない。それで今、色々なイベントを我々が準備してやってますけれども、地域の方々が自分たちで”こういうイベントをやりたい”、”こんなことをやってみたい”と提案して、自分たちで企画するような場所になってもらえると嬉しいなと思っています。人や組織を「つなぐ」ことで様々な「ひろがり」を生み出す、それがノキシタです。
この場所を作らなかったらこの雰囲気って絶対できなかったなぁ
―想定していたような、高齢者と障害者の関わりはもう生まれてますか?
村長:はい、すでに生まれてます。ひろむも、よくいらっしゃる利用者の方々に馴染んで交流しているし、ひろむの笑顔を見ると癒されると言って来てくださる方も増えています。今まで知的障害者と交流する機会のなかった方々も、だんだんどんな風か分かってもらえてるかなぁと思います。
―そういう場面をみたとき、どんな気持ちになりますか?
村長:ノキシタを作ってよかったなぁって。この場所を作らなかったら、この雰囲気って絶対できなかったなぁ、と思います。―他のコミュニティ施設とノキシタの違いとは?
村長:一番は”スタッフ”。
コレジョやひろむが醸し出す雰囲気は、私から見てもすごいと思います。正直、期待以上。複合交流施設は最近の流行りですが、施設を作って、様々な人を同じ敷地に集めるだけでは本当の意味での交流にはならないと思っています。ノキシタを利用する方々との他愛のない会話から、その方ができることを無理なく引き出したり、人と人をつなぐスタッフの力はノキシタの強みです。
もう一つは”お洒落さ”。
例えば、これが地域の集会所だと、この雰囲気ってないんですよ。高齢者も障害者も、お洒落な場所って行きにくいんですよね。お洒落な場所には若い人がいて、みんな生き生きとして、自分たちが行く場所じゃないって先入観がある。でも、ここはお洒落でありながら、そういった方々よりも、どちらかというと”居場所を求めてる方々”に使ってほしい。非日常的な空間を少しでも味わってもらえる。
―村長とってノキシタとは?
村長:自分の第二の人生ですよね。今までの仕事での経験と私生活での経験をつないで、全く違ったことを今、仕事でやっている。このひろがりって、なかなか面白いなぁと思って。どちらかというと自分の居場所であり、今の生活です。
スタッフにも利用者にも「村長~!」と呼ばれ、親しまれている加藤さん。
その朗らかな雰囲気とは裏腹に、世の中にないものを創り出そうとする情熱が、言葉の端々に垣間見えた気がしました。
新たな課題に挑み続ける村長、これからも頑張ってください!
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